風の声を聴く
第1回
2021-08-19
新型コロナ感染症
澤田修 精神科医 長崎県
「新型コロナウィルス感染症」が世界を覆い始めて9か月たちました。このパンデミックは一気に私たちの周りにも広がって来、命をも脅かす状況になっています。
正直言って、初めの頃はどのように考えていけばいいかわからなく、「大変だ!」ということで頭がいっぱいになりました。私は、病床数215床の、私立の単科精神病院に勤めていますが、「院内に感染者が出てきたら大変だ」とピリピリしていました(今もしていますが)。特に精神科病院には高齢者の方が多く入院しておられますからコロナウィルス感染症者が出ないよう、そして集団感染に繋がらないようにどうすればいいか必死です。又、永寿総合病院での「クラスターへの取り組み、スタッフの皆さんの取り組みと、伴って起こる色々な気持ちへの取り組み」そして「風評被害」など、一つ一つ私の病院での話し合いの大きな議題にさせていただいています。
こういう中で、あらゆる動きがウィルス感染を避けることから考えていくようになり、一人一人の過ごし方が制限せざるを得なくなってきているように思います。
ただ、実際の臨床現場では、この社会的な動きが制限される中で逆に生き生きとなっておられる人達がおられます。一人は入院中の患者さんで「働かないといけないのに世の中の人が怖くて退院できない。働けない。だめだ!」と苦しんで「澤田!おまえのせいだ!!」と私を見ると怒鳴ってきていた方が、「自粛」の呼びかけで「これで安心して生きていける」とニコニコし、私を見ると「先生!出ていかなくていいですね!ありがとう!」とお礼を言ってくれるようになりました。
又、中学生の女性の方は「ひきこもり」を続けていましたが、自粛の呼びかけで「安心して“ひきこもる”」ことができるようになり、伸び伸びして近くの丘にお母さんとハイキングに行くようになりました。そして学校が始まると行き始めました。
このように、ウィルス感染症から始まったことなのですが、このことから、私達の生きてきた社会・世界のあらゆるところで今迄のようにはいかない大きなものが動き始め、今迄「当たり前」とされ・言われてきたことが大きく変わっていこうとしているように思えてなりません。日本の中だけでなく、世界中で戦争や貧困、差別、偏見など現代の社会の底に流れてきているものが表に引き出されてきているように思います。
私は、赤ちゃんやお母さん、お父さんたちが安心して生き・過ごしていけることを考え、取り組んでいくことが新しい文化や形を見つけ出していくことに繋がっているように思えてなりません。そういう意味でも、この学会の役割は大きいと思っています。
「新型コロナ感染症」との共生が見つかっていくとき、今迄の「働け働け、急げ急げの中に戻っていく」のではなく、「色々な生き方をお互い受け入れていき、ゆっくりとした流れの中で生きていける」ようになれば・・・と思います。