風の声を聴く
第4回
2021-08-19
公衆衛生の視点からの児童虐待およびドメスティックバイオレンス
新城正紀 看護科 沖縄県
私は時々、「公衆衛生を教える先生がどうして児童虐待やドメスティック・バイオレンス(以下、DVとす)の研究をやっているのか?」と聞かれます。
その発端は、20年前に遡ります。2001年、ビバリー・ヘンリー博士(Beverly Henry、イリノイ大学名誉教授)が米国イリノイ大学シカゴ校退官後、私の前職であった沖縄県立看護大学教授に就任されました。ヘンリー先生は、国際保健看護がご専門で、看護教育の質を高めるための看護研究の役割について、「Nurses can also lead in efforts toward gender equality, the advancement of women, and the protection and health care of children, women, and elders.(看護師は、男女平等、女性の地位向上、子ども、女性および高齢者の保護・健康管理への取組みをリードすることができる。)」と述べています。また、沖縄県における保健看護上の最優先課題に「児童虐待」を挙げ、「講演会およびアクションプラン ストップ児童虐待 看護からのアクション」(2002年)の開催など、多くの先進的な活動と貴重な情報をもたらしました。私はヘンリー先生と協働して、上記講演会への参画や大学院設置など、看護の質向上に取組みました。
2002年12月、ヘンリー先生は、「児童虐待、女性および高齢者への暴力は、日本における公衆衛生上の重大な問題であり、この問題に注目し、取組んでほしい」と私に強く要望されました。その後、ヘンリー先生は病魔に冒され、帰国後にお亡くなりになられました。私は、ヘンリー先生からの要望は遺言だと受け止め、これらの問題に取り組む決意をしました。そして、前職での同僚の井上松代先生(沖縄県立看護大学准教授)の理解と賛同を得て、尊敬する故ヘンリー先生から受け取った公衆衛生分野の課題に向き合い、一緒に研究活動を始めました。
自分の研究の方向転換を図り、DVとそれにリンクする児童虐待に関する知識を深めていくうちに、専門分野の方々との接点ができました。「子育ての世代間伝達」、「DVや虐待の暴力によってもたらされるトラウマ」、「虐待を受けた子どもの脳への傷」など、家庭や子育ての中で起きている暴力のもたらす被害者(被虐待児)への影響について、基本的で科学的な部分を理解していく中で、渡辺久子先生を知ることになりました。
本当に大事なのは、人がつくられる胎児・乳幼児期の大人の関わり、そして家族を支える周囲の大人や社会の関わりだと認識し、公衆衛生を専門としてきた私の中で、人々の心身の健康は、そのような結果得られるものであると、核心を得ました。
2017年6月、東京で、日本乳幼児精神保健学会FOUR WSINDSセミナーの渡辺久子先生の講演を拝聴し、先生にはじめてご挨拶をした際に、渡辺先生から当学会の沖縄大会開催のご提案があり、2019年11月、「童(わらび)どぅ宝:(子どもこそ宝)~社会で支える親子の成長~」のテーマで初の沖縄大会を開催いたしました。不思議な流れの中で、確かな知識とパワーを蓄えつつ、これからも沖縄での取り組みを継続していきます。