風の声を聴く

第8回

2022-01-01

 

良好な関係にもとづく子育て

福岡女学院大学 藤田一郎

 

乳幼児精神保健学会で学んだことを実践、教育に生かしたいという思いで学会に参加しています。小児科心身症外来で親子関係を考えるとき、気になる子どもを観察し、育て直しのアドバイスをしています。そして今は保育者、教員養成課程の教員なので、「子どもの保健」や特別支援教育科目で乳幼児精神保健について触れるよう心がけています。「子ども学」の授業で子どもの観察という演習内容もあります。

 

例えば、子どもの行動を観察して、その子の特徴や気持ちを理解し、成長発達を促すために支援できることを親とともに考えます。気になる子をよく見ると、困っていることを表現できなかったり、子どもの心のSOSを理解できずに親が悩んでいたり、保育者が支援したくても手立てが思い浮かばないことがあります。子どもの問題行動の対応には保育者も協力できるので、子どもの気持ちを親と一緒に考え、親が具体的な関わり方を思いつくようにアドバイスします。

 

子どもへの具体的な声かけを親と話し合いますが、私は「トリプルP」(前向き子育てプログラム:Positive Parenting Program)を参考にしています。親に前向きな子育てアドバイスを行い、家庭における親から子どもへの関わり方を変え、子どもの行動が少しずつでも改善するように支援します。トリプルPでは良好な親子関係づくり(子どもと話す・愛情を表現するなど)をまず考え、良い手本を示しながら、子どもの好ましい行動に注目します。新しい行動を身につけていくためには、子どもと約束して観察し、できたら褒めます。

 

例えば、しつけを行うために子どもを叱るのではなく、好ましい行動を褒めることによって子どもが自分で行動を身につけていくことを期待します。おりこうさんの一言だけより、その行動を描写的に気持ちを込めて言う方が効果的です。「遊んだおもちゃをおもちゃ箱にきれいに片づけたね。おりこうさん。」という感じです。

 

子どもは、親から世話を受け、愛されていることを感じて成長する必要があります。良質な親子関係があればこその「しつけ」です。子どもとの約束は守りやすい行動を肯定文で作ります。子どもに好ましい行動を教えるもので、してはいけないことを教えるのではありません。「待合室で騒がない」ではなく、「待合室では本を読む」の方が効果的です。

 

トリプルPを学んだ母親が、「これまでは子どもの行動に×をつけるしつけをしてきた。これからは好ましい行動に〇をつける育て方をします。」と話していました。また、子どもが手助けを求めてきたときは学ぶ気持ちができているので、新しい行動を教える良い機会です。ただ答えを教えるのではなく、子どもが自分で答えを見つけるようにヒントを与えてアドバイスすると良いでしょう。好ましい行動の育み方は、親子関係だけでなく他の人間関係にも役に立つことでしょう。私は親だけでなく、子どもの世話をする大人、つまり医療教育福祉関係者と子育てについて話していきたいと思います。

 

尚、日本小児科学会雑誌にトリプルPの研究論文を投稿しました(2021年5月号)。

 

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藤田一郎、白山真知子、 梶原直子、橋野かの子、赤間健一
「前向き子育てプログラム受講が子どもの心理社会的問題に与える効果」
日本小児科学会雑誌 125巻5号 743-752 2021
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